2009年1月24日土曜日

「綿矢りさ」に夢中

wataya_risa

 

去年、どうして彼女の作品を呼んだのか、きっかけが思い出せない。家庭教師先で話題に上ったことはあったと思う。とにかく、何の期待もしないで読んだ彼女の

 

『蹴りたい背中』

 

がすばらしかったのだ。続けて『インストール』も買って読んだ。

 

いやぁ、しかし本名が山田梨沙で(同じ名字じゃねぇか!)、しかも同い年か。

鋭い感性と美しい文体を操る美人。惚れました。

そして彼女は私の教え子の通う、早稲田大学の卒業生でもある。

今年、『蹴りたい背中』『インストール』2回目、読みました。

 

次は2006年発表の『夢を与える』を読んでみよう。

 

気に入っている(他人とは思えない?)箇所を一部抜粋↓

『蹴りたい背中』より

P76

「なんで方耳だけでラジオを聴いているの?」

振り向いた顔は、至福の時間を邪魔されて迷惑そうだった。発見。にな川って迷惑そうな顔がすごく似合う。眉のひそめ方が上品、片眉が綺麗につり上がっている、そして、私を人間と思っていないような冷たい目。

「この方が耳元でささやかれてる感じがするから。」そう言って、またラジオに向き直る。

ぞくっときた。プールな気分は収まるどころか、触るだけで痛い赤いにきびのように、微熱を持って膨らむ。またオリチャンの声の世界に戻る背中を真上から見下ろしていると、息が熱くなってきた。

この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。いきなり咲いたまっさらな欲望は、閃光のようで、一瞬目が眩んだ。

瞬間、足の裏に、背骨の確かな感触があった。

 

P89

...誰かとしゃべりながら歩いているよりも一人で黙りこくって歩いていたほうが集中力が増すはずなのに、どうしてあの子たちより私の方が不注意なんだろう。しかもうつむいて歩いているのにこんな派手な色のケーブルに気づかないなんて。私は、見ているようで見ていないのだ。周りのことがテレビのように、ただ流れていくだけの映像として見えている。気がついたら教室から体育館に移動しているし。もちろん廊下を渡ったり階段を降りたりしてここまで来たんだろうけれど、自分の内側ばっかり見ているから、何も覚えていない。学校にいる間は、頭の中でずっと一人でしゃべっているから、外の世界が遠いんだ。

 

 

P109

認めてほしい。許してほしい。櫛に絡まった髪の毛を一本一本取り除くように、私の心にからみつく黒い筋を指でつまみとってごみ箱に捨ててほしい。

人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。

 

 

P111

絹代のグループの他の子たちも、興味津々の顔をして寄ってくる。この人達は何かと私を囲んで話をしようとする。きっと絹代や彼らの”良心”からだろう。でも彼らには薄い膜が張られている。笑顔や絡まる視線などでちょっとずつ張られていく膜だ。膜は薄くて透けているのにゴム製で、私が恐る恐る手を伸ばすと、やさしい弾力で押し返す。多分無意識のうちに。そしてそんなふうに押し返された後の方が、私は誰ともしゃべらなかった時よりもより完璧にひとりになる。

 

 

P170

同じ景色を見ながらも、きっと、私と彼はまったく別のことを考えている。こんなにきれいに、空が、空気が青く染められている場所に一緒にいるのに、ぜんぜん分かり合えていないんだ。

 

P171

「オリチャンに近づいていったあのときに、おれ、あの人を今までで一番遠くに感じた。彼女のかけらを拾い集めて、ケースの中にためこんでた時より、ずっと。」

 

 

P172

川の浅瀬に重い石を落とすと、川底の砂が持ち上がって水を濁すように”あの気持ち”が底から立ち上ってきて心を濁す。いためつけたい。蹴りたい。愛しさよりも、もっと強い気持ちで。足をそっと伸ばして爪先を彼の背中に押し付けたら、力が入って、親指の骨が軽くぽきっと鳴った。

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